インサートナットとは? 形状や種類、利用するメリットを解説
インサートナットとは樹脂素材を使った部品同士を固定する際に、ジョイント部分を補強するために使われるナットです。部品同士の接合部分に取り付けることで、強度の弱い素材が破損するのを防げます。
インサートナットの形状は大きく分けて、スタンダードタイプとフランジタイプの2種類です。また、挿入方法も樹脂素材に取り付けるタイミングにより成型時インサートと成型後インサートの2種類に大別されます。インサートナットを用途に応じて使い分けられるように、それぞれの特徴を理解することが大切です。
本記事では、インサートナットの基本知識や種類、選び方を解説します。
インサートナットとは樹脂製の部品同士の固定に使われるナットのこと
インサートナットとは、樹脂製の部品同士をしっかりと固定するために用いられる特殊なナットです。
近年、製造業では軽量化や製造費用の削減を目的として、樹脂製部品の利用が広がっています。エンジニアリングプラスチックといった高強度な耐熱性に優れた樹脂も開発され、活用の場が増えています。
しかし、樹脂製の部品は金属と比べて強度が低く、組み立てる際に接合部分へ力が加わると、破損やずれが起きやすいのがネックでした。そこで、接合部分を補強するために使われるようになったのが、インサートナットです。
インサートナットの用途
インサートナットは、上述の通り樹脂製部品の結合を強化する特徴を持つため、さまざまな製品で活用されています。
例えば、小型製品では携帯電話や携帯型ゲーム機、パソコン、プリンターなどです。また、テレビや冷蔵庫、照明器具といった家庭用電化製品の内部でも用いられ、重要な役割を果たしています。電子機器では、特に小さく精密なインサートナットが求められ、内部の部品固定に使用されています。
また大型製品では、自動車のエンジンやランプ周りが代表的です。このような製品の場合、振動や高温への耐性が重視されます。さらに、電車や航空機の部品にもインサートナットは採用されています。こうした製品で使われるインサートナットには、主に安全性の観点から、高い信頼性と耐久性が要求されるのが特徴です。
他には、家具や室内装飾品の樹脂部分の固定にも使われています。
インサートナットの形状

インサートナットの形状には、大きく分けてスタンダードタイプとフランジタイプの2種類があります。
スタンダードタイプは一般的な形状で、さらに片面タイプと両面タイプの2種類に分けられるのが特徴です。片面タイプはナットの片面にのみ面取りが施されており、取り付ける際の圧入方法が決まっています。
一方、両面タイプはナットの両面に面取りが施されているため、圧入の際はどちらからでも挿入できるのが特徴です。
また、フランジタイプはつばが付いているため、取り付ける際の方向が決まっています。
インサートナットの挿入方法

インサートナットの挿入方法は、樹脂素材に取り付けるタイミングによって成型時インサートと成型後インサートの2種類に分けられます。
それぞれ特徴が異なるので、基礎知識として、以下で2種類の違いを押さえておきましょう。:30%、押す力:70%が適していると言われています。
成型時インサート
成型時インサートは、樹脂素材を加工する際にナットも一緒に取り付ける方法です。インサートナットも金型にセットされており、樹脂を流し込むことで部品とナットを一体化させます。
インサートナットと樹脂が一体化しているため、高い強度と耐久性を持ちます。また、金型にナットを差し込むだけで良く、成型後インサートのような下穴の設計が不要なのがメリットです。
ただし、インサートナットを金型にセットするための人員が必要であり、セット時に作業を止めなければならない点がデメリットです。
成型後インサート
成型後インサートは、プラスチック部品を成形した後でジョイント部分にナットを埋め込む方法です。インサートナットは成型時に取り付けるのが一般的なため、成型後インサートはアウトサートとも呼ばれます。
成型後インサートは金型にナットをセットする必要がなく、効率的な生産が可能です。ただし、成型時インサートと比べて固定力が低くなる場合があります。
また、成型後インサートはナットを取り付ける方法によって、さらに拡張方式・圧入方式・熱圧入方式の3種類に分けられるのが特徴です。
拡張方式
拡張方式では樹脂素材にインサートナットを打ち込み、専用のポンチを使ってナットの先端部分を拡張します。
後からナットを拡張するため、素材のボス形状を問わず採用できる点がポイント特徴です。そのため、幅広い材質をつなぎ合わせる際に利用されています。
また、熱圧入方式とは異なり熱源を使用しないので、特別な装置が必要ないのもメリットです。
圧入方式
圧入方式は、インサートナットを取り付ける一般的な方式です。ポンチやハンマーを用いて、素材にインサートナットを取り付けます。
拡張方式と同じく熱源は不要で、特別な装置も必要ない点が特徴です。
また、ボス径を太く取ることで、素材がボス割れを起こす心配もありません。ただし、素材によっては圧入方式が使えず、熱圧入方式に切り替える必要があります。
熱圧入方式
他の方式とは異なり、熱圧入方式でははんだごてや熱溶着機を用いてインサートナットに熱を加えるのが特徴です。熱が加わった樹脂素材は軟らかくなるので、ナットを取り付けやすくなります。
熱によって軟らかくなった樹脂は、時間が経つと再び固まるため素材の強度を心配する必要はありません。圧入方式のようにボス形状を調整することなく、楽にナットを取り付けられます。
インサートナットを利用するメリット
インサートナットを利用するメリットは以下の2つです。
- ・工具が浮かないように押す力を意識する
- ・締め付けの際の軸がぶれないようにする
- ・工具の先端とねじ穴のサイズを合わせる
インサートナットは樹脂素材に取り付けることで、ジョイント部分を強化できます。金属と比べて樹脂の強度は低いですが、インサートナットが素材の破損を防ぎます。
また、インサートナットの使用により、部品の素材には安価な樹脂を採用できるため、強度を保ったまま軽量化やコストカットを図れるのもメリットです。
インサートナットの選び方
インサートナットを選ぶ際は、使用する素材に合わせて適切な種類を選ぶことが重要です。
インサートナットにはさまざまな種類があり、引張強度の向上やナットの共回り防止など、目的によって細かな形状が異なります。素材の特性によっても、向き・不向きがあるので慎重に選びましょう。
種類によって強度と耐久性があり、負荷がかかりやすい場所に使用する場合は強度の高いものを選んでください。
また、コストカットのために性能の低いインサートナットを選ぶと問題が発生する可能性があるので、コストと効果のバランスも考慮しましょう。
インサートナットでジョイント部分を強化しよう
インサートナットは、樹脂素材で製作された部品を固定する際、ジョイント部分を強化するために必須です。インサートナットがあることで、部品の強度を保ったまま軽量化やコストカットが実現できます。
加えて、使用する樹脂素材の強度を維持するには、樹脂の特性に合ったインサートナット選びが重要です。形状や素材に取り付けるタイミングに応じて、複数ある種類から適切なインサートナットを選択し、ジョイント部分を強化しましょう。